大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)3922号 判決
原告
岸上好
右代理人
伊場信一
同
大塚泰二
被告
加藤メリヤス株式会社
右代理人
寺浦英太郎
第一 主文
一、被告は原告に対し、九六五、四一〇円および内金四七七、七七〇円に対する昭和四一年八月二〇日から、内金四三二、九三〇円に対する昭和四二年三月一六日から、残金五四、八一〇円に対する同年六月三〇日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、この判決一項は、かりに執行することができる。
第二 原告の申立て
被告は原告に対し、一、〇一八、二九〇円および内金五三五、六六〇円に対する昭和四一年八月二〇日から、残金四八二、六三〇円に対する昭和四二年三月一六日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
と判決ならびに仮執行の宣言。
第三 争いのない事実
本件事故発生
とき 昭和四一年四月二七日午後零時五分ごろ
ところ 大阪市大淀区豊崎西通り一丁目三番地先
事故車 第二種原動機付自転車(中央区や五二九号)
運転者 訴外高江洲義純(無資格運転)
受傷者 原告
態様 十字路を西から東進中の事故車が北から東へ左折歩行中の原告に追突した。
第四 争点
(原告の主張)
一、被告の責任原因(民法七一五条一項)
訴外高江洲は被告の社員であるところ、被告のためその所有にかかる事故車を運転し、時速約二〇キロメートルで東進中、原告の姿を約一一メートル手前で認めたので減速しようとしたが、無資格運転のため運転技術が未熟でハンドルがぐらつき安定を失い暴走して原告に追突した。しかして、石高江洲の無免許運転は、被告の故意または過失による監督義務違反に基因するものである。
二、原告の損害
(1)受傷部位・程度
第八胸椎圧迫骨折の傷害を受け、現在なお通院加療中である。
(2)数額
(イ)療養関係費
(A)入院付添人(原告実子二名)通院交通費四、八〇〇円
阪神北大阪線南浜天六間往復電車賃八〇円の六〇日分。
(B)入院雑費一、一三〇円
(C)原告の通院交通費一六、五四〇円
1、41.7.7~10.30
タクシー隔日(一回二〇〇円)
2、41.11.1~42.6.30
電車隔日(一回四〇円)
(ロ)休業損
原告は毛メリヤス加工業明石屋の商品検査員として日給六三〇円で雇われていたが、事故後現在まで休んでいる。また、入院に付き添つた原告の子岸上幸子は、当時日給三、〇〇〇円で酒場「ドナ」に勤めていたものであるが、要看護の一五日間欠勤した。
(A)原告の休業損
1、41.4.27~7.6(七一日間)四四、七三〇円
2、41.7.7~42.6.30二一六、〇九〇円
3、41.12ボーナス 五〇、〇〇〇円
(B)岸上幸子の休業損(一五日間)四五、〇〇〇円
(ハ)慰謝料六〇〇、〇〇〇円以上
原告は家庭経済の支柱であるべき夫を失つて以来、二名の実子らとともに稼ぐ日給でようやく糊口をしのいでいる状態であつたが、本件事故のため家族をあげて悲嘆に暮れ、受傷は当初の予想に反する重傷で現在なお通院加療を要し完治の見込みは立たず、生活は極度に困窮している。
また前記明石屋は原告の全快後の復職を暗に拒絶するような態度にでているので、家内は暗たんとしてその精神的苦痛ははかり知れない。
(ニ)弁護士費用 四〇、〇〇円
三、本訴請求
以上損害合計額一、〇一八、二九〇円および内金五三五、六六〇円(前項(2)(イ)(A)(B)、(ロ)(A)1(B)、(ハ)内金四〇〇、〇〇〇円、(ニ))に対する本訴状送達翌日の昭和四一年八月二〇日から、残金四八二、六三〇円に対する訴変更申立書送達翌日の昭和四二年三月一六日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金。
第五 証拠(略)
第六 争点に対する判断
一、被告の責任原因(民法七一五条一項)
<証拠略>によると、つぎの事実が認められる。
(1)被告は昭和三八年ごろ設立されたメリヤス製造を目的とする会社であるが、その全製品は代表取締役加藤利行が大阪市北区において個人で経営する加藤メリヤスを介して販売されており、両企業の経営首脳陣は共通であり、営業倉庫を共有するなど両者は密接な関係にある。
(2)訴外高江洲は右加藤メリヤスに雇われ、商品管理の業務を担当し、自動車等の運転をすることはなかつたが、事故当日同僚の販売係員上林勝美が昼食のため販売業務を中断し、同人専用営業車たる本件事故車を一般人の通行する営業倉庫前路上に駐車させ、エンジンキーを点火装置に差し込んだままの状態で、すなわち容易に運転のできる状態で車から離れているのを認め、運転資格がないのにかかわらず練習のつもりでこれを無断で乗り出し、まもなく前方を歩行中の原告ほか一名を認めて減速のため不用意に前輪急ブレーキをかけハンドル操作を誤つため、自車の安定を失い傾きながら滑走たして原告に追突した。
以上認定の事実により判断するに、被告と加藤メリヤスこと加藤利行の企業は、商号の共通性、営業内容の密接な関連性等に照らし、実質的には一個の企業体内における製造部門と販売部門の関係にあるものと認めることができるから、各従業員は民法七一五条一項の適用上右両者の被用者にあたるものと解するのが相当であるところ、訴外高江洲の前記事故車の運転は、その外形においても事業の執行とは認めがたい。
しかしながら、右に認定したとおり、加藤メリヤスの販売係員上林勝美は昼食のため販売業務を中断し、同人の専用営業車たる本件事故車を一般人の通行する路上に駐車させて車を離れたのであるが、かかる場合運転者としては、通行人が好奇心から車にいたずらをしてこれを暴走させるようなことのないよう、エンジンキーを点火装置から抜き去つておくべき注意義務があるというべきところ(道交法七一条六号参照)、右上林はこれを怠りエンジンキーを点火装置に差し込んだまま車を離れたのであるから、右事故車の管理者として当然用いるべき注意義務を怠つた過失があり、この過失は同人の業務執行に関連して犯されたものといわなければならない。
そして、右上林の過失がなければ、すなわちエンジンキーを抜き去つて車から離れていれば、前記高江洲がこれを運転することはなかつたものと認められ、また前記のように容易に運転のできる状態で事故車を駐車させておけば、多くの青少年が車の運転に興味を抱き機会さえあればその練習をしたいと考えている昨今、右高江洲のような無謀な若者によつてこれを無断運転されるかも知れず、かつ右無謀運転者が運転を誤り第三者に対し損害を加えるような交通事故を起こす恐れのあることは、相当の注意をすればたやすく予測できることであるから、上林の前記過失ある行為と本件事故で原告が損害を受けたこととの間には、相当因果関係があるといわなければならない。
以上のような理由により、被告は民法七一五条一項の規定にもとづき、原告の後記損害を賠償すべき義務を免れない。
二、原告の損害
(1)受傷部位・程度
背部挫傷、第八胸椎圧迫骨折の傷害を受け、事故直後はさほどの痛みを感じなかつたが、二、三日経過して痛みが激しくなり、ついに昭和四一年五月七日から七月七日まで入院加療のやむなきに至り、退院後も現在に至るまで通院を続け加療している<証拠略>。
(2)数額
(イ)療養関係費
(A)入院付添人通院交通費 証拠なし
(B)入院雑費 一、一三〇円
<証拠略>
(C)原告の通院交通費 証拠不十分
(ロ)休業損
(A)原告の休業損
<証拠略>によると、原告は毛メリヤス加工業アカシヤ繊維工業株式会社に勤務し、日給六三〇円(残業手当を含む)を支給され、日曜・祭日を除き毎日働いていたが、事故後現在まで前記受傷の後遺症状(後記のとおり)のため休んでおり、左記収入を失つたことが認められる。
1 41.4.27~7.6(日曜・祭日を除き五八日間)
六三〇円×五八 三六、六四〇円
2 41.7.7~42.3.16(右同二一一日間)
六三〇円×二一一 一三二、九三〇円
3 42.3.17~6.30(右同八七日間)
六三〇円×八七 五四、八一〇円
しかし、昭和四一年一二月のボーナス損は証拠上認められない。
(B)岸上幸子の休業損 証拠なし
(ハ)慰謝料 七〇〇、〇〇〇円
右算定につき特記すべき事実は左のとおり。
(A)前記受傷部位・程度、治療期間。
(B)現在、背中や腰に痛みが残つているほか、悪天候のときには頭部に痛みを覚え、長時間同じ姿勢で立つていることができず、非常に疲労しやすくなり、完治の見通しは立たない<証拠略>
(ニ)弁護士費用(着手金) 四〇、〇〇〇円<証拠略>
三 結論
被告は原告に対し、以上の損害合計額九六五、四一〇円および内金四七七、六七〇円(前項(2)(イ)(B)、(ロ)(A)1、(ハ)内金四〇〇、〇〇〇円、(ニ))に対する昭和四一年八月二〇日から、内金四三二、九三〇円(前項(2)(ロ)(A)2、(ハ)内金三〇〇、〇〇〇円)に対する昭和四二年三月一六日から、残金五四、八一〇円(前項(2)(ロ)(A)3)に対する同年六月三〇日(最終損害発生日)から各支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
よつて、訴訟費用の負担につき民法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。(谷水央)